2017年10月16日月曜日

難治性希少疾患治療薬の開発

みなさん、こんにちは。IR広報部長の岩田です。当社は9月25日、「川崎医科大学とのデュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する革新的筋萎縮阻害剤実用化の共同研究開発に関するお知らせ」を発表しました。

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne Muscular Dystrophy:DMDと略されます)は、身体を動かす筋肉(骨格筋)が萎縮(ジストロフィー)することで、筋力低下が進む難病です。通常、2歳から5歳の男児のみに発症します。小学校高学年の頃に車イスでの生活になることが多いようです。その後も筋力低下が進行します。有効な治療法がないため、日本神経学会等が作成した診療ガイドラインによると平均寿命は30代半ばとなっています。

筋ジストロフィーには様々なタイプがあります。患者数が最も多いのがデュシェンヌ型です。それでも発症率は新生男児の約3,500人に1人とされており、日本の患者数は2,500人から5,000人と推測されています。代表的な希少疾患(患者数の少ない疾患。日本の場合、推定患者数が5万人未満)の1つとされています。なお、デュシェンヌとは、この症状を報告したフランスの医師の名前です。

今回のニュースリリースは、川崎医科大学との共同研究開発において、大きな進捗があったことのお知らせです。

世界中で様々な治療薬の開発が進められていますが、川崎医科大学・神経内科の砂田芳秀教授を中心とする研究チームは、骨格筋に存在する「マイオスタチン(Myostatin)」というタンパク質を標的分子として創薬研究を続けてきました。マイオスタチンには骨格筋の筋量を負に制御する働きがあり、マイオスタチンの働きが活性化すると筋萎縮が起こることを見い出しています。このことは、マイオスタチンの活性を阻害する物質を見つけることができれば、それが筋萎縮阻害剤の有力候補物質になる可能性が高いことを意味します。

今回、お伝えしたい共同研究開発の大きな進捗とは、マイオスタチンの活性を阻害するするペプチド配列を特定(同定といいます)し、それを当社技術を用いて最適化したマイオスタチン阻害ペプチドをデュシェンヌ型筋ジストロフィーのモデルマウスに投与した際に、筋力低下を有意に改善できることを実証したことです(非臨床POCの取得)。

実は、私は当社がこのような取り組みをしていることは、つい最近まで知りませんでした。知った時には、「たった一人の人でも良い。病気で苦しんでいる方に『ありがとう』と言ってもらえる仕事をしたい。」という夢を現会長の窪田と菅教授(社外取締役)の2人が共有することがきっかけとなり、創業されたペプチドリームにとって、いまだ有効な治療法がない希少疾患に対する治療薬(オーファンドラッグ)の開発は、最もふさわしい取り組みに思えてうれしくなりました。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬と聞くと、核酸医薬品でのエクソンスキップを用いた治療薬が国内外の製薬・バイオ企業で開発が進められていることが、まず頭に浮かびます。しかし、この方法は、患者の遺伝子タイプ(エクソンの変異形式)により使える患者が限定されます。これに対して、マイオスタチンを対象としたアプローチは、ほぼすべての患者さんに使える治療薬になる可能性があると予想されます。

臨床試験入りがいつになるのかはまだ未定です。ただし、私は国の支援や患者団体の協力が得られやすいと考えられることから、当社が5年後の平成34年6月期(2022年6月期)までの中期目標として掲げている、新薬の上市(承認、販売)1件以上の候補の1つとなるのではと期待しています。